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こんにちは、サロン経営ラボRefineの井上です。
今回は、前回の「サロン経営ノート(分析編)ーデータ分析をどう活用できるかー」に続いて経営戦略編です。
経営戦略は、経営を行っていく方向性を決める重要な役割を果たしますので、しっかりと考えて構築する必要があります。
その場その場で発生した事象に対応する形で戦略を立てていく、創発的戦略などの考え方もありますが、これは戦略が不要であると言っているわけではありません。
また、「成功する法則」は、様々な要因が複雑に絡み合うビジネスの世界では見つけるのは困難と言えるでしょう。
そのため、成功を追い求めるために経営学を活用するのではなく、「経営として歴史を踏まえて間違ったことをしないことで失敗する確率を減少させる」、つまり負けないための経営戦略であると私は考えています。
そしてそのようにしっかりと考えて経営戦略を用いることで、より長期的な運営が可能になるはずです。
この記事は、経営学における経営理論と私の実務経験を融合し、持論として昇華させた内容になっています。
かなり長文になってしまいましたが、その分説明を丁寧にしたつもりです。
明日からの経営が少しでも良くなる一助になれれば幸いです。
経営戦略の必要性
戦略は方向性
企業において、「経営理念は目的地」、「戦略は向かう方向」、「戦術は向かう方法」、「計画は向かうための具体的プラン」と置き換えることができます。(下図<戦略イメージ>を参照)

これらの概念は、上位であるほど抽象度が高く、重要であるとされています。
重要度が高いと言うのには理由があって、上位概念ほどビジネスのクリティカルな部分を担っており変更が困難なのです。例えば今回書いている経営戦略ですが、企業の進むべき方向性を示しており、これが間違えていると目的地からどんどん遠ざかってしまいます。
下図では戦略Aの方向に進んだ方が目的地(経営理念や目標の実現)に近いのは一目瞭然ですが、もし戦略Bに進んだ場合、初めの誤差は大したことありませんが進めば進むほど軌道修正が大変になります。

図を見ればわかるように、進むほどに修正に必要な距離が大きくなってしまいますね。
ここでいう「距離」というのは、経営で言えば投下資金の大きさや顧客のブランドの認知度など、どれだけ進んできたかのことを言います。
例えばトータルビューティのサロンを開業したとしましょう。
その後これを途中で1000円カットサロンに変更するとしたら、かなり大きな転換が必要ですよね。そしてそれまで獲得してきた顧客も業態が異なり過ぎて継続は難しそうです。
ゆえに経営戦略を考えることが重要であるのです。
戦わずして勝つ
戦略論の歴史は長いですが、それが経営に用いられたのは比較的最近なのです。
「孫子の兵法」という書物をご存知でしょうか。
紀元前500年ごろの中国春秋時代の軍事思想家孫武が書いたとされる兵法書で、これが最初の戦略書であると言われています。(琴坂 将広(2018))
この書籍は、「武力に訴えず戦わずして勝つこと」を最重視しているところに特徴があります。つまり知略を駆使して勝とうというものです。
また、「敵を知り己を知れば百戦危うからず」と言うフレーズも有名で、紀元前であるにも関わらずすでに情報の重要性も提示しており、現代でも通用する戦略書として現代でも多くの経営者に読まれています。
詳しく知りたい方は参考文献(金谷 治 (2000))や(浅野 裕一(1997))をご覧ください。
そのように戦略自体は遥か昔から考えられていましたが、これが実際に経営に用いられるようになったのは1960年ごろと言われています。
経営とは競合他社との戦いであり、そのような戦いの場において無策に突っ込んでいくのではなく、戦略を使って勝ち残ろうとする考え方から経営において戦略が注目されたのでしょう。
経営理論と演繹法
帰納と演繹
経営戦略の必要性や重要性についてお話ししましたが、ここではその経営理論(経営戦略)をどのようにして取り入れるかについて書いていきます。
まず、”経営戦略”と先ほどから表現していますが、これは経営学の一分野である「経営戦略論」を指します。そして、そのような経営戦略論をはじめとした経営理論は多くの学者の手によって研究された結果として体系的に理論化されたものと言えます。
上記ような社会科学における理論化、法則化などは主に「帰納法」を用いて行われます。
帰納法とは様々な個別事例から、共通する部分やパターンを法則として取り出す作業です。
様々な企業の事例データを持って、法則を探るわけです。(逆に法則を個別事例に当てはめる作業を演繹法と言います)
あたり前ですが、私たち中小企業経営者が学者のように事例をたくさん集めて実証分析を行うのは、現実的に難しいですよね。
なので、「頭のいい人たちが研究して見つけてくれた理論を拝借して演繹的に自社経営に活かしていきましょう」と言うのが私のスタンスです。
以下に帰納と演繹の図を示します。

アブダクションを絡めた経営サイクル
上記では帰納と演繹という推論法と、演繹的な経営理論の活用についてお話ししました。
ここでは「アブダクション」という概念を追加しておきたいと思います。
アブダクションは仮説を構築するための推論手法であり、『事例に対して演繹的に法則を仮定してみて、考えられる仮説を立てる』、という手法です。
この説明ではわかりにくいと思うので簡単な例を示します。
<アブダクションの例>
起こった事象:売上が上がった
↓
使えそうな法則:客数が増えると売上が上がる
↓
導き出した仮説:売上が増えたのは客数が増えたからだ
このようにして事象から仮説を導き出す手法をアブダクションと言います。
そしてこの「アブダクションを交えて、先ほど説明した経営に関する理論を学び、それを仮説をもとに自社の事例に当てはめてみて、実行して、結果を検証し新たな仮説を立てる」、というサイクルを回すことが戦略的な経営のための手順となります。(下図<論理的事業活動サイクル>をご覧ください)

この図が示す組織として論理的に経営理論を活用して運営していくためのサイクルで自社が行うべきなのはグリーンのゾーンの中です。
よって、事業経営においてメインで必要となってくるのは、演繹法、アブダクション、実証分析の3つの論理思考ツールであり、経営陣はこれらのスキルを身につけておくべきです。
具体的には、
・演繹法とアブダクションを用いて具体と抽象を行き来しながら柔軟に自社事例に転用できる理論を模索する力
・定量的な実証分析(統計学や計量経済学など)で検証を行う力
・仮説思考や問題解決思考を用いて改善を繰り返す力
このような一連のスキルを持つことが重要であると私は考えます。
経営理論の分類
ここからは具体的な経営理論の中身についてお話ししていきます。
まず、一口に”経営理論”と言っても様々なものがあり、それぞれ源流としている学問が異なっていたりします。
元となる学問は主に「経済学」、「心理学」、「社会学」の3つです。
このうち今回お話ししている経営戦略については、「経済学」発祥の理論が最も関連が深いので、そちらを中心にお話ししていきます。
以下に、(入山 章栄(2019))を参考にして私が作成した<経営理論の分類>図を示します。

経営理論活用の前提条件
経営理論の分類についてお話ししましたが、これらを自社経営で用いる際に注意点があります。
<前提の注意>
経営理論を自社に適用する際に、
①自分の感情や欲求をしっかりコントロールできている
②自社の置かれている状況を的確に把握できている
という条件が必要となります。
これらの2つは、できていない場合、せっかくの理論や経営上の取り組みを台無しにしてしまうので注意が必要です。
また、このようなバイアスは様々な形で私たちの日常に潜んでいます。
バイアス自体は人間である以上完全に排除するのは難しいですが、今バイアスがかかっているかも知れないと疑う姿勢は常に持っておきたいですね。
経営を思考するためのフレームワーク
経営学には4Pだったり3Cだったり、先人の考えたフレームワークがたくさんあります。
これを使わない手はないですね。
なぜこのようなフレームワークを使用することが良いとされるのか、それはあらかじめMECE(Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive)になっていることが大きなメリットとして挙げられます。
フレームワークはそれぞれ経営学から構築されたものと、経営コンサルタントの実務から構築されたものがありますが、
どちらも思考を整理するために有用であり、おまけにMECEであるのでロジックツリーに組み込む際などに重宝します。
論理思考を行う上で、そのような「切り口」をたくさん持っておくことは有用であるとされていますので、定番のものや自分で編み出したものなど、様々なフレームワークを頭に入れておいて損はないでしょう。(照屋、岡田(2001))
フレームワークの関連性
以降は、下図<戦略フレームワーク全体像>を中心に議論を進めます。
フレームワークにはそれぞれ得意なことがありますので、何か命題に対して乱れ打ちで当てはめていけばいいというわけではもちろんなく、その状況や目的に応じたものを選択して使用するのが望ましいです。
また、それだけではなく、各フレームワーク同士の関係性を数のように頭に入れて整理しておくことで、適切にフレームワークを選択することができ、自社経営について思考する速度や精度を高めることができます。

(次ページへ続く)
